ギリシャ出身のヨルゴス・ランティモス監督の映画です。「籠の中の乙女」も前に見たのですが
こちらもかなり異質な感じの映画でしたね。
何が凄いって最初から最後まで一貫して、不協和音、違和感を感じさせる画作りがされているんです。
特別、暗かったり影があったりする訳でもなく、一見するとなんら変哲のない画でも、どこか不安な雰囲気を漂わせています。
ストーリーって音楽の曲みたいに、イントロがあってサビがあって間奏があってって激しい所がすぎると一旦休むみたいな流れがあるじゃないですか?
その溜めの部分でさえ妙な緊張感が漂っているので中弛みする所が無いんです。全体としてはフラットに進んでいくんですけど、
常に何かが起こりそうな気配があるのでグイグイ吸い込まれていきます。
お話的には複雑な所はなく、医師の主人公が元患者の息子にドンドン追い込まれていきます。
対抗手段が全く無くて、さらにその対象が自分ではなく家族が標的にされているので鬼畜な追い込みですね。ジャンルとしてはホラーです。
僕が凄く好きな所が、本作は引きの画が凄く多いんです。例えば雄大な大自然とか、車が激突したりする迫力あるシーンだったりすると凄く見応えがありますけど、
何の変哲も無い所でも多用されています。ただカットの繋がり的に入ってる訳ではなくて、意図的に演出としてやっているんだと思います。
僕の印象に残っている、引きの画を効果的に使ってる作品で
山下敦弘 監督の「リアリズムの宿」「リンダ リンダ リンダ」があります。
ジャンルとしては全然違う作品なんですけど、どちらも、誰もが見たことのあるような風景が多いので、ノスタルジックな気分になりやすいんです。
広い画だと自分の目でみた感じに近いので、自分の体験した記憶とリンクしやすいので、引くことによって逆に印象深くなると僕は思っています。
「籠の中の乙女」の舞台は外国なので記憶リンクとかはしにくいと思いますが
主人公の勤めている病院と自宅がメインの舞台となっているので
広く引くことによって、主人公の置かれている状況がより正確に生々しく伝わって来るから、この不気味さが際立っているのかな?とも思います
広い画ってとっても難しいんです、
なぜかって、特に日常的な部分を切り取るとどうしても情報が多くなってしまうからです。
例えば、普段スマホで街の写真を撮った時、電線とか看板とかカッコ良くないものが色々入ってきて乱雑な写真になってしまった事ってありませんか?
加えて、そこに人が入ってきてと要素が増えれば増えるほど、見せたい物の印象が薄くなってしまいます。
そこを踏まえて本作を見てみると、いかに計算された画作りがされているかって事に気がつかされます。
写真でも何気ないその辺の風景を撮った物でも何かいいな〜って感じる物があると思います。
ロジカルに見ていくと、何かいいなって感じる理由が必ずあります。構図、光、色、などスナップ写真ですと、
いい感じになっている部分をカメラ切り取ればいいだけですけど、映像となると意図的に作っていかねばなりません。物を足したり引いたり、人の位置や動きを考えて、
光も自然光で無理だったらライティングしてと。それを一定のトーンで統一しつつ、作っていくのってメチャクチャ大変だし凄い事だと思います。
もちろん監督一人の力ではなく撮影監督であったり俳優の演技力であったりと、色々な要素が複雑に混ざり合って反応しあって出来ているとは思いますが、
そういう色々な要素をコントロールしながら自分の世界観を出せる映画監督ってやっぱり凄いですね!!